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第八回 カイロンの話

第八回は、カイロンのお話です。占星学では、基本的に誕生時や節目に当たる時の太陽系惑星の配置図を作ります。そこに小惑星で、もしかしたら彗星とも言われるカイロンを加えるようになったのは、1977年にこの星が発見され、ギリシャ神話上の賢者ケイロンを由来とする名前がつけられてから。実際、「傷と癒し」を象徴するこの星の発見以降、ニューエイジと言われるスピリチュアルな価値観が誕生し、その流れはアロマテラピーや各種心理カウンセリング、東洋医学などを含むヒーリングブームへとつながり、今ではすっかり定着、多くの企業が働く人のメンタルケアを重視するようになりました。反面、カイロンが示唆する神話的な意味の理解がないがしろにされる傾向も否めなくなりました。今回ユキコさんは、ケイロンの神話から、この星のもたらす「傷」の意味、そして恩恵について語っています。

                   文/ユキコ・ハーウッド 構成・編集/中谷マリ 

 

 ※ユキコ・ハーウッドの「12星座英国紀行」をお読みになりたい方は、ユキコさんのサイト「星の架け橋」へどうぞ。

 ※本文はユキコ・ハーウッドさんの了承を得て、本サイトに掲載しております。本文の転載については原則お断りいたします。適切な目的でのご利用をお望みの方は、本サイトまでお問い合わせ下さい。

 ※本連載で使用する写真・画像の多くはウィキペディアから引用させていただいております。

 

 



 

 

 



 

 

 

  2016年度心理占星学オンライン・コースのご案内

 

 

 オンライン研究コース5月6月のお知らせ
 5月18日水曜 日本時間午後8時-10時
           「12室の星:殉教者と救世主」
 6月15日水曜 日本時間午後8時ー10時
           「天秤座の木星」
 受講料 1回23ポンド (約3600円)
       (2月21日現在 1ポンド=159円で計算)

●「オンライン研究コース5月6月のお知らせ」

  日程に続き、以下の説明文追加

  この研究コースは、占星学の基礎知識(星座、惑星、ハウス程度)をお持ちの方を

  対象としたものです。現在学習中の方からプロの方まで、吉凶二元論にとらわれず、占星学への造詣を深めたいという方に、ぜひおすすめ。

※都合により、心理占星学ファウンデーション・コースの開催は、2017年1月に

 延期させて頂きます。あしからずご了承くださいますよう。

●オンライン・ホロスコープ・リーデイング

 人生の岐路に立っている、将来の青写真を描きたいという方におすすめの

個人セッションです。

 1回80分 65ポンド(約1万円)

 

いずれもお問い合わせ、お申込みは infoyukiko@candyastrology.co.uk に。

 

また詳しくはサイトをご覧ください。

www.candyastrology.co.uk

 

 

ユキコ・ハーウッド プロフィール

1954年大阪生まれ。1978年より、故山田孝夫氏に西洋占星学と瞑想を師事。

2007年渡英。CPA (The Centre for Psychological Astrology, ユング派の心理占星学者

リズ・グリーンが主宰するロンドンの心理占星学専門校)の3年間デイプロマ・コースに入学。

2011年デイプロマ取得、卒業。

現在はブライトン在住。日本の方に向けて心理占星学オンライン・コースを開催。

 

●ユキコさんからのメッセージ●

「CPAを卒業して数年間は燃え尽き症候群のような日々でした。が、残された人生、

吉凶判断の占いではない、体系だった心理占星学を、歴史、神話、美術などを通して日本の方々に伝えていきたいと思います。

そして若い世代が、ゆくゆくはインターナショナル・アストロロジャーと呼ばれるにふさわしい占星学家に育っていくことのお手伝いが、今の自分にできることと考えています。」

惑星よもやま話 バックナンバーはこちらから

 今回はカイロンのお話です。公転周期は約50年。土星と天王星の間をイレギュラーな軌道で巡る天体で、時に土星の軌道の内側に入ることもあり、太陽系の惑星の仲間として認められてはいませんが、占星学では天体の神様の仲間として取り上げられます。

 私はこのカイロンについて言いたいことがたくさんあります。

まず。占星学の本を見ると、たいてい「カイロンは癒しの星。だからホロスコープ(人が生まれた瞬間の天体の配置図)で、カイロンが際立った位置にある人は、ヒーリング能力に優れる。適職はアロマ・セラピストやカウンセラー」といったことが安易に書かれています。

 

 で、私はこの「癒しとヒーリング」の定義が、どうも腑に落ちません。この「癒し」という言葉が、手垢がつくほど近年ひんぱんに使われて、例えば「がん細胞が消える」「青汁、玄米療法で治るアトピー」といった本の見出しを連想してしまうのです。

 

 そしてたいていの人は、この「癒しとヒーリング」に、肉体的不快症状や痛みが軽減することを期待します。これはカイロンの性質から最もかけ離れた、お門違いの短絡的な解釈、と私には思えるのです。

 

 ギリシア神話のカイロンは、クロノス(土星、山羊座の支配星)が、人間のピュリラーと交わってできた半人半馬の子供。クロノスが妻の目を盗んで、馬に変身して交わったことから、上半身は人間で、下半身は馬のカイロンが生れたわけです。

 

  我が子の怪物じみた姿に憤慨した母親はサッサとカイロンを見捨てます。しかしカイロンはアポロ(太陽、獅子座の支配星)と、アルテミス(月、蟹座の支配星)から竪琴、弓術、占術や医術を学びます。そしてへーリオンの山の洞窟に住まい、薬草を栽培して病人の治療にあたります。つまり知性も教養も芸術性もある優れた治療師だったわけです。

 

 ところが。ある日、運悪くヘラクレスの放った毒矢に当たり、不死身の傷を負います。気の毒にも、半分は神様の血筋を引くカイロンは、人間のように死ぬことができません。あまりの痛みに耐えかねて、自分の不死身をプロメテウスに肩代わりしてもらって、ゼウス(木星、射手座の支配星)に冥界入りを乞います。

 ゼウスはカイロンの願いを聞き入れ、カイロンが弓を引く姿を星になぞらえ、カイロンの姿を夜空に送り込みます。これが射手座です。

 

実際の小惑星キローンとは別に、神話ではケイロンはゼウスによって空に挙げられ、射手座となったと言われます。このことからカイロンを、射手座の守護星と考える人もいます。

 と、ここまでがギリシア神話のカイロンのお話。私はカイロンの名を聞く度、ロンドンの占星学専門校で学んでいた頃、先生がバンバン机を叩いて「よく考えなさい! カイロンは傷を負ったからヒーラーになったんじゃない! 優秀な治療師だったのに、自分の傷だけは治せなかったの!」と話してくれたことを、なつかしく思います。

 

 

 

 

 

  ここで、カイロンの特徴を箇条書きにして挙げてみましょう。


① 馬に変身した神クロノスと、人間の女性から、生まれた子供。つまり神でも人間でもなく、人でも獣でもない、アウトサイダーとしての存在感を物語る。


② 自分の不始末のせいでなく母に見捨てられたカイロン。このくだりから、いわれのない疎外感を象徴すると言えるでしょう。


③ ヘラクレスの放った毒矢が、誤ってカイロンに当たった。つまり誰の悪意もなく生じた不慮の事故です。言い換えると責める相手が見つからない不条理。人は起こりうる全ての災難を、誰かのせいや、食事のせいや、政治のせいにできれば、煮えくり返る腹わたも、だましすかしなだめることができるのですが、持って行き場のない怒りほど辛いものはない、とこれも専門学校の先生が話してくれました。なるほど、と私なりに納得する次第です。


④ 優秀な治療師だったのに、自分の傷だけは治せなかった。つまり一生癒えることのない、終生抱える傷と痛みを表す。
 

以上、4点です。

 

ですから、ホロスコープの中でカイロンが際立っている人は、「どこに行っても自分がすんなりと溶け込める場所がない。仲間外れの疎外感を常に感じる。皆が笑っていても、心から一緒に笑えない。悪いことをしていないのに、自分が不当な扱いを受けているように感じる。世の不条理に憤りを覚える。」こういった思いが強くなるのでは、と思います。

 

 で、こういった症状に対する処方箋ですが、先ほども述べましたように、カイロンは調剤薬局の薬剤師ではない。カイロンに託される痛みと憤りを取り除く特効薬なんてないのです。

「そんなことはない。あなたも治る。」と簡単に言いますが、世の中には元通りに修復できないこともたくさんあります。例えば、地雷で吹っ飛んだ両足が勝手にニョキニョキ生えてくるか、火事で焼け死んだ父親が生き返るか、といった具合です。

 

 ですが。カイロンの傷を昇華して、そこから数多くの芸術作品を生み出すことは可能です。例えて言えば、割れたガラスを元通りに修復することはできなくても、ガラスの破片を使ってきれいなモザイクを作ることができるように、です。抱えようのない憤りと悲しみが、ていねいに濾過されて珠玉の作品として姿を現した時、人はその中に、なんとも言えず美しいものを見出します。

痛みと怒りそのものは消えませんが、人生を耐えうるものにする絵画や詩、そして音楽。例えば黒人のゴスペルですね。自分を慰め、ひいてはそれが多くの人の心に感動を呼びおこす。あえて「癒し」と言うならば、それがカイロンの「癒しのギフト」だと、私は考えます。

 

 長くなりますが、最後に宮沢賢治の「永訣の朝」を引用させて頂きます。

これは賢治が、24才の若さで亡くなった妹トシを看取った時に綴った詩です。

 

今でも多くの熱狂的なファンを持つ宮沢賢治の作品。1896年8月27日、花巻に生まれた彼の誕生時のホロスコープチャートでは、カイロンがとても重要な役割を果たしています。ここでご紹介する「永訣の朝」や「よだかの星」は、カイロンの傷を抱えながら、不条理への怒りと悲しみをろ過した末の珠玉の作品と言えるでしょう。

カイロンの軌道は、かなり風変わりです。上図のように、時には天王星の軌道の外側になったり、また時には土星の軌道よりも内側になったりします。このことを占星学的に読み解けば、カイロンの「傷」が、時に土星のもたらす試練や苦痛よりも生々しく身近に感じられ、また時には現状を突破するひらめきや新しい視点の認知をもたらすこともあるということになるかもしれません。

ケイロンは、神々に数学や音楽、弓術や占星術を教えた賢者。絵はDonato Cretiによる「アキレスの教育」。一方、小惑星カイロン(天文学ではキローン)には2015年マサチューセッツ工科大学により、土星や天王星のような環があるということが発表され、話題になりました。

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