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幼い頃からの手芸好き。刺繍や洋裁など、布を用いた手作りにどっぷりはまって過ごした少女時代を過ごし、バッグや袋物のデザイナーとなった森江由美子さん。服や小物は自分で作るのが当たり前だった時代から、大量生産・大量消費の時代を経て、今なお現役であり続けるパワフルウーマンです。

ゑにしは彼女のブランド<doll jozzette>の魅力に迫りつつ、彼女のたどってきた道を伺いました。

大阪。阪急電車の淡路駅ほど近くにある<doll jozzette>にうかがったのは、
2013年の秋のこと。

店先の看板、店内にところ狭しと置かれた小物やバッグ
は、どれを見ても可愛くておしゃれで、しかも上質。

店に入った瞬間から、
カラフルなセンスが光る森江由美子さんの世界に惹き込まれます。


いったいどんな方がこの世界を作り上げているのだろう?


そんな期待でワクワクしていたところへ森江さん登場。

一目でお洒落上級者とわかる着こなしに、

思わず「すてき!」と声をあげてしまうほど、

独自のスタイルをお持ちの方です。

若々しい。だけど子供っぽくない着こなしは、自分の世界を持っている証。


「置いてあるものはもちろん、お店の造作や内装も全部、とことん好みにこだ
わったんよ」


開口一番、モノ作りにとことんこだわっている方らしい言葉に、お話を伺う
のがさらに楽しみになりました。

森江さんのセンスが詰め込まれた

カラフルフェミニンな店内は、

まるでパリのアパルトマンのよう

この人の行く道 vol.2

大阪の森江さんのお店 doll jozzete は、手作り感いっぱいのカラフルスペース。小さくて可愛い小物や雑貨から、まるで絵画をそのまま布地にしたようなゴブラン織のバッグまで、ところ狭しと並ぶ店内は一日見て回っても飽きません。

「刺繍とか裁縫とか、手作りするのが小さい頃から大好きで、結局それが仕事
になったいう感じやな」


 高校時代には母親の友人たちから注文を受けて、服やバッグを手作り。近所
の手作りshopで自作の作品を委託販売していたという森江さんは、19歳で結
婚、20歳で出産した後も、ずっと手芸を続けていました。
そんなある日、帽子からバッグ、ジャケットやスカート、上から下まで手作り
のものを身につけて布問屋の並ぶ堺筋本町を歩いていたら、その近くのコット
ンショップの人に声をかけられ、週に一度そのお店にある生地の中から好きな
布を持って行って、作品に仕上げて欲しいという依頼を受けたのでした。


「クレイジーパッチワークのバッグが大人気を博してね。

作って持って行くと、待ち構えていたお客さんが袋から出したとたんに買ってくださるんよ。それで息子の学校のPTAの方たちに声をかけて手芸好きな人たちにお手伝いしてもらいながら、需要に応えてました」


 森江さんは、1983年にオリジナルバッグや小物を製造・販売する会社

(株)アルディを設立。以来、自らのブランド<doll jozzette>の商品を小売り販売するお店を経営しながら卸売りも行っていますが、今なお手芸好きの仲間に支えられながら、大好きな世界で生き続けていらっしゃいます。

 

 

両親から引き継いだモノ作りの精神を遺憾なく発揮し、

小学生時代から大人顔負けの腕自慢に!

「今振り返ると、モノ作りが大好きなのは父譲りやと思うわ。

父は大工仕事から編み物、料理、ギターまでありとあらゆる手作りを楽しんだ人で、最後は一刀彫で観音様を彫ってましたから」


 子供達の成長にあわせて、ベッドや机や椅子まで手作りしてくれたというお父さんは、大きなバイクの後ろに森江さんを乗せ、進駐軍の払い下げ市や、映画館などに連れて行ってくれたのだということ。

「特にフランス映画に漂うアンニュイなムードや色彩感覚に憧れましたね。ほら、私の少女時代はレナウン イエイエの時代やったし、シルヴィー・バルタンの歌が大流行したり、フランスのファッションやアートにものすごく惹かれました。とにかく父のモノ作り好きを見て育っているので、パリのムードが漂う服や持ち物を、自分で作りたいと思ったのです」

 

 編み物好きのお母さんが編み機の手を休めて買い物へ行っている間に、お父さんが編み機を動かしていたという事もあったというほどのモノ作り好き。これは男の仕事でこれは女の仕事、という考え方をしないモダンなセンスの持ち主だったのでしょう。お母さんもお洒落好きで、森江さんは子供の頃から手作りのベレー帽やセーラー服を身につけて育ちました。


「いつもシャーリー・テンプルみたいな服を着せられてたな。父もかなりバタ臭いものが好きだったと思うよ。というのも父の祖父は明治の頃、油問屋を商ってたのだけど、これから電気の時代になるという時にアメリカへ行ってコーヒーの焙煎を勉強し、帰国して親族一同を説得して喫茶店をあちこちに作った人やし。早くに父親を亡くした私の父はほとんどその祖父に育てられたようなものだから」


 なるほど! と思うことしきり。

<doll jozzette>の店内の、何とも言えない美意識は、代々受け継がれて、積み重ねられてきた揺るぎないセンスがあるからなのでしょう。だからこそどこか特定の国の文化を単純に模倣した感じではない、森江流の美意識が感じられるのです。

 森江さんが表現する作品に漂う、何とも言えないニュアンスは、親やその親、さらにその親から引き継いできた確固としたモノ作りの精神や創造性が基盤になっているからなのだ、と深く納得したのでした。

 

 

森江さんが小学校6年生の頃に制作した刺繍の作品。粗い絽の生地に、びっしり刺繍を施して行く手法です。後にゴブラン織に導かれて行った森江さんの原点がここにあるように思えます。

衝撃のゴブラン織との出会い。そしてこの織物の魅力を

最大限に活かすバッグ作りに、のめりこんだ年月。

ゴブラン織のバッグたち。ヨーロッパで15世紀の頃に

盛んだった織物が、機械生産出来るようになり、大衆化

をたどりましたが、<doll jozzette>に置かれている

ゴブラン織は、どこか手織りの時代を彷彿とさせるものが

多く、何とも言えない風格があります。

左/吹き抜けの店内を明るく照らす照明にも、森江さんの趣味が感じられます。右/店内のあちこちに飾られている小物のひとつひとつが、この店の雰囲気を盛り上げ、他にない世界観を作り上げています。

<doll jozzette>の店内で、

特に目を引くのがゴブラン織の大小のバッグたち。


花や動物を織り込んだものや景色を織り込んだもの、リアルな描写のものから図案化された柄まで、どのバッグも甲乙つけがたい魅力があります。

森江さんが初めてゴブラン織と出会ったのは30年近く前のこと。

当時から今でもよく足を運んでいる展示会のひとつに出品されていたものでした。それは桐生で織られたゴブラン織の布地。
「その頃からバッグ作りに用いる布地をいろいろ捜していたんやけど、何か感じるものがあったんやろな。以来、あちこちにゴブラン織の布地を求めて回っているうちに、フランスやベルギー、イタリアなどのゴブラン織に出会い、すっかり惚れ込んでしまったんよ。それでヨーロッパまで買い付けに行くようになったのです」


 ゴブランという名前は、 15世紀にフランスのゴブラン兄弟のタペストリー工房が人気を博した事が発端になり、17世紀に国王ルイ14世がこの工房を国営化して保護した事から、つづれ織(タペストリー)全般をゴブランと呼ぶようになったのです。多色の縦糸と横糸を用いて複雑な模様や美術的表現をするつづれ織りの手法は日本でもかなり古くからあり、西陣織などはその代表格。ゴブラン織りと称する国産のバッグも多く出回っていますが、やはりフランスやイタリアなどのヨーロッパのゴブランとはちょっと雰囲気が異なります。


「これはもう、人それぞれの好みやと思うけど、私は糸の色や素材、濃淡の色使いの微妙さなどからフランスのものが一番私のデザイン感覚にしっくりくると思っています」


 <doll jozzette>には他にも麻やビニールコーティングした生地などを使用したバッグが並んでいますが、どれも森江さんならではのセンスで統一されています。ゴブランはその中でどんな位置づけなのでしょうか?


「ゴブランの魅力のひとつは、使い込むほどにそれを使っている人になじんで行くというか、味のある存在感を放つようになるというところやね。でもそれも人それぞれで、くたっと形が変わって行く事を嫌う人もいるだろうし、同じように使い込んで味が出る素材でも麻の方が好きという人もいます。バッグ作りをする時に私が心がけているのは、それを使う人の事を思うことなんよね。30年も店をやっていると、新しい素材を見つけた時に『これやったら、あの人が好きやろうなあ』というのが自然にわかるようになって来て、それがまたとても楽しいんや」


<とにかく布地が大好きなんや>という森江さん。

アイディアをふくらませるために、気になる美術展に足を運んだり、デザインの参考になる本を読みあさったりする努力も続けています。

そうして今なお意欲的に新しい素材を取り入れ、新しい商品を生み出しています。大人になった娘や息子は今では彼女の仕事を支える頼もしい存在となり、森江さんは彼らとはスープの冷めない距離のところで、お母さんとの二人暮らし。

 

「子どもの頃からの夢を仕事にして、ここまでやってこれたのは、忙しい私に代わって育児や家事を一手に引き受けてくれた母や、製品作りに協力してくれた仲間が支えてくれたから。彼らのためにも、これからもガンガン前に進んで行きますよ。そうやね、死ぬまで頑張らなあかんと思ってます」

 

いくつになっても少女のようなキラキラした輝く瞳で生き続けている姿が

心に強く焼き付きました。

 

 

森江由美子さんのブランド、dall jozzetteとの共同制作で、

「オフィスゴブラン」シリーズ第一弾 ゴブランの美しさと機能性を活かしたオフィスバッグ、販売しています! 詳細はこちらへ

 

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