
第六回 木星の話
第六回は、木星のお話しです。イギリスの作曲家ホルストによる組曲『惑星』の中でも,つとに知られていて、誰でも聞けば、ああ、あの曲と思い出すのが、『ジュピター(木星)』。おごそかに、前向きになれる曲ですね。およそ12年かけて地球を一周する木星は、ギリシャ神話では神々の王、ゼウスが司る星で、おおらかさや寛大、寛容の精神を表すと言われ、これまでご紹介して来た月や金星、水星や火星など数日から数週間で位置を変える天体とは異なり、人生の岐路や分岐点で発揮される能力、あるいは意味や意義を物語ると考えられています。ユキコさんは木星のこの働きを、ディケンズのクリスマス・キャロルを題材に掘り下げていきます。
文/ユキコ・ハーウッド 構成・編集/中谷マリ
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木星になると、公転周期は12年と一気に長くなります。サイクルが長いゆえ、日々のバイオリズムではなく、人生の節目と共鳴する神様だと私は考えます。
次回くわしくお話ししますが、土星の公転周期は約29年半。そして木星と土星は「一対の賢者」と言われます。

今回は木星のお話です。これまで、太陽は人生を一つの意味あるものに編み上げる力を、月は育み察する感性を、水星は独自の視点を磨く才覚を、そして金星は愛し喜ぶ才能を、火星はチャレンジ精神を物語る、と書いてきました。
で、以上五つの惑星の神様に託されたサイキに潜む様々な側面ですが、いずれも主語はあくまで「私」になります。例えば月が「お腹すいた」と言う時、アフリカ中東難民の話をしているのではなく、今の私がお腹すいたと言っているのです。
ところが木星まで来ると、主語は「私」から「人生というもの」に変わると思います。なぜか? 例えば月は地球の衛星で、わずか27日余りで1周して元の位置に還ってくる。そして水星金星、いずれも地球と太陽の間を巡る内惑星です。火星とて公転周期は、たかだか1年11か月と、いずれもサイクルが短いのです。
つまり日々の出来事に対する反応や感情体験とスイングする天体の神様だと、私は捉えます。ですから主語はいずれも「私」になるわけです。
但し、太陽系宇宙の中心で恒星(自ら光を放つ天体)である太陽は別格です。これについてはまた後でお話しましょう。

誰しも人生のクライシスに何度か遭遇します。当たり前の話ですが、人生の分岐点は週刊月刊で配達されるものではありません。そしてその時の導き手はお金でも地位でもなく、内なる知恵だと私は考えるのです。
太陽系の惑星は、この図のように太陽を中心として軌道を描く天体たちです。ですが、占星学では、基本的に私たちが暮らしている地球を中心にして、地球から見る太陽系の惑星の配置図を作って、人の性格や未来、出来事の意味や価値を読みとります。
ところで、木星は射手座の支配星。射手座を治める神様。そしてギリシア神話の「全知全能の神ゼウス」(ローマ神話ではジュピター)です。
このゼウスですが、次回お話するクロノス(土星)の末息子。我が子に実権の座を奪われることを恐れたクロノスは、生まれてきた子供を次々呑み込みます。嘆き悲しんだ妻のレアは、末息子のゼウスが生れた時、石を布にくるんで「これがゼウスよ。」と、夫に差し出します。それとは知らず、石を呑み込んだクロノス。
一方クレタ島に預けられたゼウスはスクスクと成長して、大きくなってから兄弟を救うべく、父クロノスの前に現れます。そして呑み込まれた子供たちを次々に吐き出させ、兄弟力を合わせてクロノスを倒します。ちなみにハデス(冥王星)、ポセイドン(海王星)は、ゼウスに助け出された兄達です。
この手柄を称えられ、ゼウスはオリンパスの最高神として君臨します。前回お話しした粗暴なアレス(火星)と違って、反目する神様がいなかったようですね。弱者の見方、寛大な慈悲の神であると同時に、あちこちに子供を作った好色家でもあったそうです。
そういう次第で、ものの本を見ますと「木星は大幸運の星。木星の影響を強く受ける人、つまり射手座生まれの人や、ホロスコープで木星が顕著に目立った配置にある人は、金運や社会運に恵まれウンヌンカンヌン」と、もてはやすように書かれていますが、これに関して私はマユツバものと見ています。
さらに「寛大で気前よく、深遠な学問、哲学、宗教、外国に深い関わりをもつ」と続きますが、これはどうでしょうか。
私自身はこの木星、人生を啓発啓蒙へと導く力であり、神の恩寵を表すと考えます。この目覚めへ導くゼウスの力ですが、アレス(火星)のように戦場で敵の生首を串刺しにして持ち帰るようなことはしませんね。つまり暴力沙汰が登場しないのが特徴です。

そう言えば、19世紀イギリスの作家、デイケンズの作品に「クリスマス・キャロル」というお話がありますね。私は木星と聞くといつもこれを思い出します。
ケチで強欲なスクルージじいさんの家に、クリスマス・イブの夜中、三人の精霊が訪れる。一番目、過去の精霊は、スクルージの淋しかった子供時代と、純真だった青年時代のクリスマスを見せてくれます。二番目、現在の精霊は高利貸しのスクルージに苦しめられている町の人達の貧しいクリスマスを見せます。三番目、未来の精霊は訪れる人もない、暗く淋しい未来のスクルージの墓に連れて行きます。
ここで木星が言うところの「寛大なる精神と学問」について、二番目の精霊に注目しましょう。英語にはジョビアル(jovial)という形容詞があります。快活で寛大、周りの人を陽気にさせるような人を指して「ジョビアルな人」というようです。で、このジョビアルの語源は、ローマ神話のジュピター(Jupiter)。木星の下で生まれた人は寛大の精神に恵まれる。この2番目の精霊はまさにジュピター(ギリシア神話のゼウス)が、形をとってスクルージの前に現れた存在だと、私には思えるのです。
英国の作家ディケンズによる小説「クリスマス・キャロル」。冷酷無比で情け知らずの初老の商人エベネーザ・スクルージが、クリスマスイブに出会った三人の精霊によって、温かく寛大な心を取り戻すストーリーで、世界各国で映画化・舞台化されています。
ギリシャ神話ではゼウス、ローマ神話ではジュピターと呼ばれる木星の神様。彼は神々や人間の犯した過ちに、おおむね寛大で慈悲深い裁定を下しました。同時に正妻ヘラの目を盗んでは多くの女性と交わり、たくさんの子どもを残したことでも知られています。木星の象徴するこのような特質は、個人の中でも寛大さや慈悲深さとして表現されると同時に、だらしなさやけじめのなさとして表現されることもあるかもしれません。
スクルージが夜中に目が覚めて隣の部屋に行くと、テーブルに赤々とキャンドルが灯り、ご馳走に囲まれて、マントを着た巨人が座っている。「私は、お前がこれまで見たことのない、お前の知らないものだ。私は寛大の精神だ」と言います。
そしてこの2番目の精霊はスクルージを町に連れ出し、貧しい人々の暮らしを見せた後で、自分が着ているマントの裾をパッとめくると、痩せこけて目のギョロギョロした二人の子供が中から現れます。巨人は「この子達は無知蒙昧と貧困だ」( Ignorance and Want)と言い、スクルージは言葉を失い立ちすくみます。
クリスマスの朝に目覚めたスクルージ。夢かまことか精霊の働きで一夜にして“ジョビアル”な老人に生まれ変わり、それからは町の人達に施しを惜しまないという結末。このストーリー全体に、脈々と流れる木星の精神が感じられます。

加えて言うと、この「無知蒙昧と貧困」、木星の精神に最も反するものだと私は思います。この場合、無知蒙昧とは低学歴や情報知識に乏しいことを言っているのではありません。人生の精神的な意義を理解できない魂の貧しさを指すと考えます。ですから高学歴でも実業家でも、無知蒙昧な人はいるものです。
そして貧困ですが、社会の歪みや権力者の欲得で、しいたげられる人達。これも木星の慈悲寛大の精神に反します。施すと減るのではなく増える、と考えるのが木星です。自分の財布には返ってこなくても、社会全体の繁栄としてこだまのように波及していくわけです。

この意味において。確かに木星は「幸運の星」であると私は考えます。ただ何をしてもトントン拍子で小判ザクザクとは思いません。
木星に象徴される霊的な閃きや不思議な巡り合わせが起こるからこそ、私達は人生の逆境を乗り切ることができる。
右上/第二の精霊がスクルージにクリスマスのごちそうを見せられた後、彼が無慈悲に扱った家族のささやかなクリスマスを見せられます。左下/無知と貧困を象徴する子ども達と向き合うスクルージ。
そしてね。日々の暮らしの中で、月が感じて、水星が考えて、金星が喜び、火星がチャレンジする。そこに木星の「哲学する力」が加わって、以上全てが太陽に還元されて、「セルフ」という唯一無二の存在を創っていくことになります。
土星以下の惑星ももちろん加わります。土星については次回お話しましょう。

1954年大阪生まれ。1978年より、故山田孝夫氏に西洋占星学と瞑想を師事。
2007年渡英。CPA (The Centre for Psychological Astrology, ユング派の心理占星学者
リズ・グリーンが主宰するロンドンの心理占星学専門校)の3年間デイプロマ・コースに入学。
2011年デイプロマ取得、卒業。
現在はブライトン在住。日本の方に向けて心理占星学オンライン・コースを開催。
●ユキコさんからのメッセージ●
「CPAを卒業して数年間は燃え尽き症候群のような日々でした。が、残された人生、
吉凶判断の占いではない、体系だった心理占星学を、歴史、神話、美術などを通して日本の方々に伝えていきたいと思います。
そして若い世代が、ゆくゆくはインターナショナル・アストロロジャーと呼ばれるにふさわしい占星学家に育っていくことのお手伝いが、今の自分にできることと考えています。」
改心し、「ロンドンで最もクリスマスの過ごし方を知るジョビアルな男」となったスクルージ。「クリスマス・キャロル」初版本には、当時人気だったジョン・リーのイラストによる挿絵がほどこされ、ペーパーバックとハードカバーの二種類が売り出されたそうです。
