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第七回 土星の話

第七回は、土星のお話しです。土星は、占星学では、試練や困難、長い時を積み重ねて完成する物事などを象徴します。ギリシャ神話では、息子で木星の神様となったゼウスのお父さんで、かつての神々の王・クロノスが土星の神様として知られています。我が子に実権を奪われることを恐れて誕生した子どもを次々と飲み込んでしまったクロノス。そのため、変化や改革がもたらす失敗を恐れ、既得権や伝統にしがみつく厄介者の星であり、多くの占星術の教科書には、『凶星』と書かれることも多い土星。けれどユキコさんは、土星のもたらす恩恵〜ギフト〜に着目します。熟成とか成熟という言葉に焦点が当たる昨今は、多くの人が無意識のうちに土星の力を求めているのかもしれません。ユキコさんの土星の話を読むと、そんな実感が湧いてくるでしょう。

                   文/ユキコ・ハーウッド 構成・編集/中谷マリ 

 

 ※ユキコ・ハーウッドの「12星座英国紀行」をお読みになりたい方は、ユキコさんのサイト「星の架け橋」へどうぞ。

 ※本文はユキコ・ハーウッドさんの了承を得て、本サイトに掲載しております。本文の転載については原則お断りいたします。適切な目的でのご利用をお望みの方は、本サイトまでお問い合わせ下さい。

 ※本連載で使用する写真・画像の多くはウィキペディアから引用させていただいております。

 

 



 

 

 



 

 

 

  2016年度心理占星学オンライン・コースのご案内

 

 

 オンライン研究コース5月6月のお知らせ
 5月18日水曜 日本時間午後8時-10時
           「12室の星:殉教者と救世主」
 6月15日水曜 日本時間午後8時ー10時
           「天秤座の木星」
 受講料 1回23ポンド (約3600円)
       (2月21日現在 1ポンド=159円で計算)

●「オンライン研究コース5月6月のお知らせ」

  日程に続き、以下の説明文追加

  この研究コースは、占星学の基礎知識(星座、惑星、ハウス程度)をお持ちの方を

  対象としたものです。現在学習中の方からプロの方まで、吉凶二元論にとらわれず、占星学への造詣を深めたいという方に、ぜひおすすめ。

※都合により、心理占星学ファウンデーション・コースの開催は、2017年1月に

 延期させて頂きます。あしからずご了承くださいますよう。

●オンライン・ホロスコープ・リーデイング

 人生の岐路に立っている、将来の青写真を描きたいという方におすすめの

個人セッションです。

 1回80分 65ポンド(約1万円)

 

いずれもお問い合わせ、お申込みは infoyukiko@candyastrology.co.uk に。

 

また詳しくはサイトをご覧ください。

www.candyastrology.co.uk

 

 

ユキコ・ハーウッド プロフィール

1954年大阪生まれ。1978年より、故山田孝夫氏に西洋占星学と瞑想を師事。

2007年渡英。CPA (The Centre for Psychological Astrology, ユング派の心理占星学者

リズ・グリーンが主宰するロンドンの心理占星学専門校)の3年間デイプロマ・コースに入学。

2011年デイプロマ取得、卒業。

現在はブライトン在住。日本の方に向けて心理占星学オンライン・コースを開催。

 

●ユキコさんからのメッセージ●

「CPAを卒業して数年間は燃え尽き症候群のような日々でした。が、残された人生、

吉凶判断の占いではない、体系だった心理占星学を、歴史、神話、美術などを通して日本の方々に伝えていきたいと思います。

そして若い世代が、ゆくゆくはインターナショナル・アストロロジャーと呼ばれるにふさわしい占星学家に育っていくことのお手伝いが、今の自分にできることと考えています。」

 今回は土星のお話です。前回お話した木星の公転周期は12年で、土星は29年半。そんなことから共に人生の節目に方向指示器を見せてくれる惑星の神様で、そして木星と土星は「一対の賢者」であるとも考えられます。

 

 山羊座の支配星(星座を治める神様)、土星はギリシア神話のクロノス(Cronus)。ローマ神話では、サトルヌスの名で呼ばれます。

 クロノスが、子供に実権を奪われることを恐れ、生まれた子供を次々呑み込むエピソードは、前回お話しました。が、クロノス自身も、父ウラノス(天空の神、天王星)を天界から追放して、自分が実権の座についたのです。父打倒を企て、夜中にウラノスの寝床に忍び込んで、カマで性器を切り落としたことから、農耕用のカマを待つ姿で描かれます。

 神様のネットワークの中では、もっぱら嫌われ者で通っているようです。

一方、ローマ神話のサトルヌスの方は、「収穫豊穣を司る神」として、多少なりとも好意的な目で見られているそうです。

 

 また、時を神格化した存在をクロノス(Chronos)と呼ぶことから、占星学の土星には「年月や老い」という意味も与えられます。

 

ウラノス(変化や改革を表す天王星の象徴)とガイア(大地の象徴)の息子で、息子での知にオリュムポスの神々を統治するようになるゼウスの父親、クロノス。占星学でサターンと呼ばれるのは、クロノスのローマ名サトゥルヌスの英語名だからであり、あくま(サタン)とはまったく異なる出自を持つ存在です。

時を神格化したクロノスを語源とする言葉はたくさんあります。例えば、クロニクル(chronicle)年代記、アナクロニズム(anachronism)時代錯誤、クロニック・デイシーズ(chronic disease) 慢性病、といった具合。

 

 桃栗三年柿八年と言いますが、何事も種まきから収穫まで、つまり一つ行動を起こしてから結果を見るまで、それなりの年月が必要です。そしてその期間は、人により事により異なります。言い換えると「お湯をかけて3分間、インスタント・ラーメン」のようなわけにはいきません。

 

しかし人間は、特に現代人はどうも3分以上待つのが嫌いなようです。なるべく最小限の手間とコストで、最大限の収穫を得ようとします。そしてそのことを「効率が良い。」と、あたかも美徳のように称えます。

このあたり。占星学の教科書を見ると、「土星の影響下では、なにごとも労多くして実りすくなく、ものごとの遅れ停滞が予想される。」と、まるで土星が悪者のように書かれている所以でないかと、私なりに想像してみる次第です。

 ギリシア神話のクロノスが実権の座を奪われることを恐れ、自分の子を呑み込んだエピソードに目を向けますと、「恐れ」という感情も大きく浮かび上がってきます。自分が築き上げた地位や権限が永遠のものではない、いつかは手離さなくてはいけない恐れ。

 この中には「老いていくこと」への恐れも含まれるでしょう。

 

 土星を物語るに適切な、と私には思える1枚の絵があります。

イタリアの画家、テイツイアーノ(Titian, 1488-1576)の晩年の作品。日本語訳を見ますと「三世代の寓話」となっています。

 

cronosとしばしば混同されるchronosは、時間を表す神様。占星学でも、両方の意味を用いてホロスコープチャートを解読する研究者が多いようです。

 

イタリアルネサンス全盛期の画家ティツィアーノ・ヴェチェッリオの『三世代の寓話』。ティツィアーノは、長命な画家で、作風は年齢とともに変化しています。初期の作品は奔放な筆遣いと繊細な色使いが特色だそうですが、この作品は晩年の性術久下落ち着きの中に、鋭い洞察力が際立ちます。

 右側が青年、中央が人生盛りの壮年期の男性、左側は老人です。そしてその下の動物に注目。右側には犬、真ん中はライオン、左には狼が描かれています。

 

 話が横道それますが、心理占星学を通して人生を観る時、白黒吉凶二元論で片づけず、象徴的に世界を眺める目が要求されます。つまりものごとの背後に潜む、霊的な意義を汲み取る力です。そこが育たないと、占星学は吉凶判断に踊らされるだけで終わってしまいます。皆さんも心を澄ませて、それぞれの人物が、そして動物が語りかけてくるものに耳を傾けて下さい。

 まず犬を見て連想すること。私は、裏表のない無邪気さ、主人に従う従順さ、快活さを

思い浮かべます。青年期の疑うことを知らない純朴さを象徴するかのような犬の存在。

中央男性と、その下のライオン。いかにも働き盛りの壮年期を誇るような、威風堂々としたバイタリテイーが感じられます。

 

 さらに左側の老人、そしてその下の狼。狼を見て浮かぶイメージは人様々でしょうが、私は「月に向かって吠える狼」から「孤高の精神」を連想します。

そして思うに、この孤高とは決して惨めなものではありません。ただ孤高の精神を受け入れることは難しいと考えます。

 

 人間にはいろんな欲とも言える願いがあります。病気をしたくない。家族に愛されたい。お金を稼ぎたい。家を持ちたい。社会で認められたい。人にほめられたい。

 これ全て、五感で感知できる目に見えた世界でのバロメーターを元にしたものです。血圧も偏差値も貯蓄額も。つまりバロメーターの基準は、自分の内面でなく、医者の診断、親の期待や社会の認知度によるものです。

 そして周囲からの評価を得るために、付和雷同で黒を白と言いゴマをすって、自分をだましすかせて年月を重ねることが多い。このような生き方を続けていたのでは、狼に託される「孤高の境地」に至ることはまずありません。群れの中の羊で終わってしまいます。

 

 むやみに権力になびかず、打算に走らず、内面の声に従って自分の道を歩み、そのあかつきには、ただの文無しかもしれないけど、それでも一人で月に向かって吠える。そこには生きることへの究極の尊厳が感じられます。

 また若いうちは野心に燃えて、失職や離婚で全てを失った時、初めて自分の内面の存在価値に触れる、といったこともあるかもしれません。

いずれもこの絵が私に語りかけてくる、世代ごとの人生の徳であり、年月を経て培われる敬虔さであり、そして私にはこれが土星からのギフトに思えます。

 

 しかし私も含め「お湯をかけて3分間」のイージーな暮らしをしたいものですから、なかなか土星の取り組みに臨むことができません。土星の辞書に「お手軽、即効」という言葉はありません。そして土星のメガネを通して眺めると、私達がヤッキになって到達しようとする目標の大半は、あぶくのように空しいもの。

 

 ところで最近、大病や失職したという方。検査結果表や通帳を見て嘆かずに、自分の心に正直に問いかけてみてください。これまでの人間関係や仕事は、本当に自分が心から望んだものだったかどうか。

 前回も書きましたが、人生というオーケストラの指揮棒を取るのはあくまで太陽、セルフです。人生の指揮棒を世間体や他人の評価に預けていたのでは、やっぱり土星は病気や失職という形で、シグナルを送り続けてくるでしょう。

人生には大病や失職という分岐点があるからこそ、軌道修正のチャンスが与えられ、人生の主導権を自分の手に取り戻すことができるのです。土星は厳しいですが、やはり「賢者の星」です。

 

それにしても土星について書くのは骨が折れますね。いつもの5倍も時間がかかってしまいました。

 次回はカイロンのお話です。

 

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