

田町の慶応仲通りを抜けた先にある「まごわやさしい」
通いつめたくなる一期一会のメニューたち

「食べる」×「おもしろい」

天然素材の旨味を素直に引き出す

東京・JR田町駅にある「慶応仲通り」。高度成長経済期の良き空気感を今なお残すこの街の一角にある白壁造りのお店『まごわやさしい』。
街灯の灯りに照らされて白く反射する壁の美しさと、店内からこぼれ出る
あわく優しい灯り。お店のコンセプトを知らずとも「身体に良いうまいものが食べられる」、そう直感させてくれるたたずまい。
その直感は正しく、古くから伝わる健康的な食生活法でもある「まごわやさしい」を店名に冠したこの店では、二十四節気と呼ばれる季節の移り変わりごとに旬な食材と、今だからこそ口にしたいものを「まごわやさしい」の概念に合わせた料理を提供してくれる。
『まごわやさしい』の最大の特徴は二十四節気の季節が移り変わるごとにすべて一新されるコースメニュー。
厳選されたそのときどきの「うまいもの」が全7品のコース料理として提供され、季節が変わったタイミングで次のメニューへと一新。
いつも定番のアレというものはこの店に存在しない。食べ逃してしまうともう二度と口にすることができないかもしれない。そう思ってしまったら、もうお店のとりこ。一節気はわずか2週間。今回のコースがお気に入りであれば、2週間のうちに何度も足を運びたくなってしまうし、次回のメニューが気になる。そんな見事なメニューの数々がこの店にはいつもある。
食べる楽しみはうまいことだけではなく、目で楽しみ、鼻で楽しみ、舌で楽しむ。盛り付けや彩りの美しさ、そこから感じられる季節感。料理の香り、舌から伝わってくるうまみや食感。うまいものは身体のあらゆる感覚と繋がって、そのうまさを主張する。
しかし、それだけで満足してはいけない。口にしたものが、身体にどんな影響を与え、何を構成していくのか?
人間の肉体はおおよそ半年程度で生まれ変わると言われている(骨は数年)。当然だが、血や肉を構成しているのは、口にした食べものである。この店で料理と双璧をなす最大の特徴はメニューである。
「うまいもの」たちが身体の中でどのように生き、自分の身体を作ってくれるのかを教えてくれる。
店長でもあり、料理長としても活躍する恩田真一(おんだしんいち)さんは、6年間に渡って創作和食店と焼き鳥屋で日本料理の基礎を学び、その後なんと洋食店でのコックへ転身。
和の中に洋のエッセンスを取り入れ、「だし」や「素材」のうまみを引き出しながら、洋の魅せる料理のテイストをしずかに取り入れる。
今が旬のおいしいものを口に入れてもらうことで、現代において実感しづらくなってきている季節感を感じながら食事を楽しんでもらいたいと語る。草木が芽吹く春の味、雨あがりに香り立つ植物の生命力と土のにおい。
見落としがちな季節の小さな変化を料理の中に表現してくれる。
そして恩田氏の料理をいっそうおいしいものへと昇華させているのが、スタッフの安達舞さん手がけるメニューである。
ところせましとイラストと解説文がびっしり踊るメニュー。いま口にしている「うまいもの」が身体にどんな効果をもたらしてくれるのか、料理の名前にはどんな由来や言い伝えがあるのか、など解説。
今にも胸元に飛び込んできそうなメニューは一字一句詠み逃したくないと思わせる楽しさがそこにある。
お店を離れれば、サクソフォンのプレイヤーとしても活躍する安達さん。胸元に飛び込んできそうなメニューは彼女の音楽性から生まれ出たものなのかもしれない。
食事を楽しく彩るメニュー
『まごわやさしい』と出会ったのは、お店のオープン2日目のこと。慶応仲通りの雑踏の中にあって白く光る壁、内側からこぼれる優しい灯りは異彩をはなっていた。お店に入ってコースを頼み、最初の一口目で「久々にうまいものを食べた」と、心がほぐされるのを感じた。「美味しい」だとか「素敵なお味」なんていう上品な感覚ではなく「うまいもの」を食べたと思った。
一般的な感覚でいえば『まごわやさしい』の料理は出汁の味や食材がもつ本来の味を最大限に生かした「美味しい料理」のはず。ならば感じるべきは「美味しい」なのに、五感に訴えてくるこの店の料理は「うまい」だった。
この「うまい」料理の数々を、私の拙い雑記とともに1年間にわたってご紹介させていただくことになった。料理と文章によって季節の移り変わりを楽しんでいただけたらお店の一ファンとしてうれしい。


写真・構成・文/宮代伸介(みやしろ しんすけ)
趣味は幅広く、「広く局所的に深く」がモットー。公私を通じて知り合ったさ まざまなジャンルの人たちとの交流を楽しんでおり、ゑにしサイトを始め、友人・知人の強力な助っ人として活躍。カメラマンでもライターでもなく、某IT企業に勤める傍らWEBサイトの設計・運用・構築、広告タイアップ提案・制作などが本業の企画職。複数のメディアをつなげた広告、宣伝のディレクター的な立 ち位置に立てたら、これまでの経験や本領を発揮できるのでは?と周囲の人たちは感じている(本人がどう思っているかは不明だが)。
学生時代は演劇に明け暮れていたらしく、芝居には強い関心を抱いている。社交的な人物かと思えば、そうでもないらしく、日がな読書にふける日も多いようだ。今回の連載、ゑにしが発想できたのは宮代氏がもともと「まごわやさしい」の常連で、ゑにしスタッフをお店に案内してくれたことがきっかけ。彼の多様な才能を遺憾なく 発揮していただき、関わるみんなをハッピーにしてくれるに違いない。