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第三回 水星の話

第三回は水星のお話しです。水星は英語でmercury(マーキュリー)と呼ばれ、ローマ神話に登場する神様の名前がつけられています。そしてマーキュリーはローマ神話より古い時代のギリシャ神話上ではヘルメスと呼ばれています。今回、ユキコさんはヘルメス誕生時の神話から、占星術では一般的にコミュニケーションや知性、交通などを意味すると言われる水星の象徴的な意味について掘り下げています。あなたが日々取り交わす人とのやり取りや、移動手段の選択、交渉や駆け引きの時には、そこに必ずヘルメスが関わっている・・・。そう考えることで、暮らしの中に意識的にヘルメスの力を呼び込むこともできるかもしれません。      文/ユキコ・ハーウッド 構成・編集/中谷マリ 

 

 ※ユキコ・ハーウッドの「12星座英国紀行」をお読みになりたい方は、ユキコさんのサイト「星の架け橋」へどうぞ。

 ※本文はユキコ・ハーウッドさんの了承を得て、本サイトに掲載しております。本文の転載については原則お断りいたします。適切な目的でのご利用をお望みの方は、本サイトまでお問い合わせ下さい。

 ※本連載で使用する写真・画像の多くはウィキペディアから引用させていただいております。

 

 



 

 

 



 

今では商業や交通、コミュニケーションの神様として知られるヘルメスですが、更に古い時代のガイアとかロゴスといった極めて抽象的な神様のいた時代まで遡ると「男根」を原型とし「道祖神」としての役割を果たしていました。つまり道しるべや境界を表す存在。人や神々が移動する時に不可欠な存在ではありますが、それ自体に善悪の基準はありません。善悪はあくまでそれを用いる者の手にゆだねられているのです。このことは、後年ヘルメスがオリュムポスの神々の一員として、かなり人間的な性質を示すようになってからも変わっていません。ヘルメス自体はことの善悪や正邪をジャッジせず、ただひたすら移動や伝達に努めるのです。

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 今回は水星のお話です。ローマ神話のマーキュリーの名で知られている水星。ギリシア神話ではヘルメスに当たります。

 

 全知全能の神ゼウス(木星)と、女神マイアの子供であるヘルメスは、生まれた時から竪琴作りの名人で、赤ん坊にして、アポロの牛50頭を盗むという芸当をやってのけます。それも牛を後ろ向きに歩かせて、自分が盗んだとバレないようにして、まんまと50頭せしめます。

 ところがそんな小細工は簡単に見抜いたアポロ。「牛返せ!」と、ヘルメスの所にやって来ます。それに応え「赤ん坊のボクに、そんな難しいことできるわけないじゃん」とウソブいて、ますますアポロを怒らせます。とうとうカンカンに怒ったアポロに、ゼウスの法廷に連れて行かれたヘルメス。

 「返しなさい」ゼウスの一言で、アポロにシブシブ牛を返しますが、ここで引き下がるような純情ものではありません。「お詫びに竪琴の演奏を献上いたします。」と、しおらしさを装って、アポロの前で自慢の竪琴を奏でます。ヘルメスの中には「きっとアポロがこの竪琴を欲しがるだろう」という、もくろみがあったのです。

 読みが当たって、「その竪琴ほしい!」と言い出したアポロ。「じゃあ、やっぱり牛、ボクにくれる?」と持ちかけ、結局は牛50頭を自分のものにします。

 そしてこの時にアポロから仲直りのしるしに、神々の伝承の証しであるケーリュケイオンの杖をもらいます。

 

 この才覚をゼウスに見込まれたヘルメス。死者の魂を冥界のハデス(蠍座の支配星、冥王星)の元に連れて行く水先案内人のお役目を仰せつかります。

 

 私、この話、好きですね。思い返す度に忍び笑いが出てしまいます。

嘘つきで狡猾とも言えるのですが、陰惨な暗さや残虐さがなく、あっけらかんとして憎めないチャッカリ者なのです。

 こういったことから、ものの本には水星を支配星とする双子座の人は「頭の回転が速く、機転が利き、同時に二つ三つのことをこなす。半面、飽き性で言うことがコロコロ変わる。」なんて書いてあります。

 

 ギリシア神話のヘルメスは、年をとらない永遠の少年の姿で描かれます。そして魔法のサンダル”タラリア“と、空を飛ぶことのできる黄金の翼のついた帽子”ぺタソス“をかぶり、自由にどこでも飛んで行ける。

 老成した賢者のような知恵ではなく、ストロボ・ライトのように、瞬時に移り変わる好奇心の発露を表します。小さな子供によく見られる行為です。

  ですからね。水星が成長するためには、様々な経験と失敗が必要です。「やってはいけない」と言われたことを、わざわざやってみる。そしてその体験は、親には内緒。でも、自分と同じ目線で話せる友達や兄弟と語り合ってトコトン意見を交わす。その中から自分なりの視点観点が少しずつ生まれるのです。

 

 占星学の教科書では水星のキーワードに「友達、兄弟」が出てきても、「親、目上の者」が出てこないのはこのためです。「学校の先生が言いました」「お父さんが言いました」では、独自の人生観は育ちません。人生、ただのレプリカで終わってしまいます。

 

 思えば小学校1年生の頃でしょうか。クラスの友達の間で「サンタクロースは本当にいるか?!」が大論議の的になったことがあります。いると思う子、いないと思う子。それぞれにその理由を、顔を真っ赤にしてエンエンと話しました。

 そして面白いことに先生が教室に入ってくると、サッと水を打ったように全員、鳴りを潜めましたね。そして先生が出て行くと、またケンケンと話し出す。

 「先生に聞いてみよう。」という子は誰もいませんでしたね。子供心に、上から目線で先生に何かを決定されたくない。自分達だけで納得のいくまで話し合いたい、という気持ちがあったように思います。

 

 自分の失敗体験も含め、あちこち足を運んで首を突っ込んで、見たこと聞いたこと、経験と情報と知識のカケラの寄せ集めを元に、自分なりの観方を育てていく。これができないと水星は、つまり私達のマインドは、口先三寸の上滑りになってしまいます。

 

そしてここからが肝心なところ。ギリシア神話のヘルメスは、年をとらない永遠の少年の姿で描かれるにも関わらず、死者を冥界のハデス(蠍座の支配星、冥王星)の審判に連れて行く水先案内人という不思議話。

ヘルメスは友人や同僚との知的交流や往来を促すのみならず、天界にいるゼウスと冥界にいるハデスの橋渡しもしました。大地母神で母性の象徴であるデメテルの愛娘ペルセフォネ(コレー)がハデスによって冥界に連れ去られた時、彼女を母の元へ連れ戻すためのゼウスからの伝言を伝えたのもヘルメスです。

 この「審判」の意味ですね。これは私がロンドンで心理占星学の専門校に通っていた時に、先生が話してくれたこと。ハデスの審判とは、世相に連れて変わり行く、世間の法律や常識に基づくものではなく、己の内側から人生の意義と価値を問いかける審判。

 この意味では、どんなに社会的成功を収めても、人から尊敬される人物でも、死に際の内的な審判は、無意味で空虚なものかもしれません。

逆に身体障害があっても、ホームレスでも、あの世に渡る瞬間、人生は光で満たされたと感じるかもしれません。このあたりは他人からは図りきれないものがあります。

 

 不満だらけの人生を人のせいにしないためにも、水星ヘルメスに託された「自分なりに考えて意味づけする力」を養っていくことは大切です。

 占星学の本には「水星はその人の思考能力や頭脳の働きを表す」と書かれていますが、この能力とは、暗記力や学校の成績ではありませんね。自分の視点を養う力を表します。同じ出来事、でも角度を変えて観ることで別のものに見えてくる。意味が変わる。

この良い例がエッシャーのだまし絵。見方によって、全く異なるものに見えますね。

江戸末期の浮世絵師、歌川国芳も、これをほうふつとさせる作品をいくつか残しています。

 

 「何を見ても興味が湧かない。どこへ行っても面白くない」なんて、ぼやく人を見かけますね。水星の働きが衰えると、人生も枯れる。水星が息絶え絶えになりますと、人生は精彩を放ちません。水星の活性化、つまり知的好奇心を絶やさないことが、弾力ある人生の第一歩です。

 

 水星に関しては、面白いエピソードがまだまだありますが、またいつかお話しましょう。

次回は金星のお話です。

上/エッシャー「物見の塔」 1958年作  右/歌川国芳「寄せ絵」

1847年頃の作品。エッシャーは1898年6月17日生まれ。誕生時の太陽は、水星を守護星とする双子座にあり、水星そのものも双子座にありました。きわめて水星が効いたバースチャートの持ち主らしい、見方によって、いくつもの解釈ができる抽象的作品が特徴的です。歌川国芳は1798年1月1日生まれ。誕生時の月が双子座にあり、太陽及び水星は山羊座にありました。彼の描く世界は現実的で社会性の高い山羊座の太陽らしい具体性を持ちながら、「寄せ絵」に見られるように、よく見ると人の顔が多くの人体によって出来上がっているという、風刺の効いた作品が特徴的です。これも水星を守護星とする双子座にある月が、彼をして本能的に描かせているように思えます。

 

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