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ヱニシインフォ vol.1

ヱニシ インフォ Vol.1

西行がつくりし木偶、人を斬るら

花の下にて

平安の頃、西行が高野の山に籠ったとき、

あまりの人寂しさに耐えかね、野ざらしのを集め、秘法で作り出した

人型の木偶。それは、心を持たない化け物だった。

千年以上の時を経た幕末。その化け物が江戸の町を揺るがす。

そのには・・・?

2014年12月11日〜14日

於:東京芸術劇場シアターウエスト 主催/テトラクロマット

脚本 坂口理子 演出 福島敏朗 +居合道 無外流明思派吹毛会

最初に考えたのは、芝居の中に居合いの持つ静かな緊張感を取り入れることでした。                             〜福島敏朗さん

「2年ほど前に、居合をやっている知人に頼んで体験させてもらったのですが、芝居に使えるなと。時代劇の殺陣のシーンって、派手ですよね。音楽なんかもエキサイティングな感じで。チャンバラは観客を興奮させるけど、居合ならピンと張りつめた糸のような緊張感を伝えられるのではと思い、どうしても今回の舞台に取り入れたかったのです。脚本の坂口さんは、最初あまり乗り気じゃなかった(笑) でも彼女自身が西行のエピソードを思いついた時から、骨組みから肉づけまで、どんどんできて行くようになりました」という演出の福島さん。WOWOWシナリオ大賞で受賞者同士だったというご縁から、受賞仲間が集う会合で言葉を交わすようになったとのこと。

「坂口さんと組むのは2度目で、1度目はもともと彼女がすでに書いてあって、いずれ舞台でと考えていた脚本を演出したので、ゼロから作り上げて行くのは今回が初めてなのです。僕の演出は、基本的に大道具小道具などの装飾的な物を極力排して、抽象的な道具を使い、それを役者自身が動かして場面転換して行くのもの。だから坂口さんには好きに書いて。想像通りの舞台にはならないかもしれないけど(笑)とお願いすると同時に、登場人物すべてに、スポットがあたるような群像劇にして欲しいとお願いしました」

 

「というのも、舞台って、主役も脇役も生身の人間が同じ時間を使って演じる物だから、登場人物が全員同じモチベーションで参加してもらいたいと、僕は思っているのです。そのために今回の舞台の稽古に入る半年前から自分の肉体の感覚を研くためのワークショップに参加してもらい、稽古の時にはどの人も対等に舞台上の動きや台詞について意見が言えるようにしてきました」と語る福島さん。

 実際、稽古の様子を見ていると、誰もがこの舞台を作り上げる一員であると言う意識が感じられ、和やかなムードの中にさわやかな緊張感が漂うのが分かります。

福島敏朗さん。学生劇団で演出業に目覚める。手がけたCM300本以上。現在は映画、舞台、ライブ、オペラなど活動の場を広げている。

出演者の肉体と意識の感覚を研き、本番に活かすものとなったワークショップ。

稽古に入る前のワークショップは、この舞台の出演者以外も参加出来るもの。

 そしてその緊張感は、この舞台の中身にも、絶妙にマッチングしているのです。幕末の動乱期。これから新撰組が誕生しようとしている時代、殺気を感じさせずに人を斬るという謎の存在を巡って江戸の庶民の間で囁かれる噂の数々。それをばらまく瓦版屋や裏で糸を引いているらしい人たち・・・。それはどこか今の日本の状況と重なるような気もします。

「私は、この舞台を通じて時代が大きく動いて行く時の大衆が作り出す膨大なエネルギーと、その愚かさについて

考えていただけたら・・・と思っています。一人一人はいい人。だけど大衆という力となり、一つの方向へ暴走したらどうでしょう」というのは脚本家の坂口理子さん。

幕末を舞台にすると決めて、時代が大きく変わる時の”大衆”を描きたいと思いました                            〜坂口理子さん

坂口理子さん。数多くの脚本賞を受賞した実力派脚本家。2013年秋にはスタジオジブリ映画「かぐや姫の物語」の脚本も手がけた。

 底流にしっかりしたテーマがあることを感じさせながら、表向きには軽妙なやり取りやストーリー展開があり、観る者を惹き付けてくれるのが坂口さんの脚本の魅力。それを福島さんが抽象的な道具使いで、底流のテーマをあぶり出します。坂口さんと福島さんのコンビが繰り出す舞台は、その絶妙な塩梅にあるのかもしれません。

「『花の下にて』では、7枚の襖くらいの大きさの木のフレームに、和紙のように後ろが映るような薄い素材を張って、舞台上の場面に合わせて置き方を変え、場面転換して行きます。時にはそのフレームの後ろで演じられている芝居が影絵のように映り、前での芝居とシンクロしたりすることもあります。今の稽古段階では、フレームだけですが、それを場面転換ごとに役者達が動かして行くのです」と福島さん。

公演に向けての稽古風景。11月14日の稽古を見学した。徐々に広い稽古場に移動して行き、本番を迎えるのだという。

      今回の役を演じるため、半年間居合道を学びました。

                                       〜俳優 源さん

 「居合道って、耳には聞くけど実際どうゆう剣術なのか、皆さんには馴染みがないと思います。わかりやすいところで言えば座頭市みたいなものかな。相手の一瞬の動きを読んで動く。受身の剣術なんです。人が動く直前の気配を読んで、その前に動く。それができるとすごくかっこ良くなるのだと思います。刀は遠心力によって生じる打撃が大きい為、恐怖心で相手から遠ざかろうものなら逆に危険になるのです。無駄のない合理的な動きを旨とする居合道では恐怖心を捨て相手の懐に飛び込む事で、身をかわして攻撃が出来るのです。これ、自分自身と向き合うと考えた時に、すごく考えさせられますよね。

 今回の舞台はあらゆるものの二面性というか表と裏がテーマになっていると思うんです。登場人物同士にもそんな対比が感じられると思うし、当時の世の中としても表と裏がある。どの時代もそうだと思うのですが、振り子が大きく振れる時は、表と裏の落差も激しくなるのだと思うのです。そういう意味で、僕が演じる役はこの芝居の中では、かなり純粋な存在だなあと思ってます。実際の僕の中には、ちゃんと黒い部分もあるから(笑)その違いを感じながら演じています。

 坂口さんの脚本の芝居には何度も出演していて、いつも終えた時にあたたかいものが残るのですが、今回も僕の中にあたたかい何かが残るだろうと思います。そしてきっとこの芝居を観た方達にも確かなあたたかさを持ち帰ってもらえるのではないかと思います」

今回、台詞が極端に少ない非常に難しい役をこなす源さん。半年間、居合道を習い、自分と向き合って来た人の「顔」は、とても穏やかだ。

「花の下にて」 東京芸術劇場シアターウエスト 12月11日から14日

チケットの予約・お問い合わせはこちらまで

舞台の唯一の大道具がこのフレーム。役者達が舞台上で並べ替えて場面転換する。

場面を説明する装飾を省いた分、観客の想像力が刺激されるようだ。

タレントのなすびさんも出演俳優の一人。なかなか面白い役どころをこなしている。

「たとえば今年は佐村河内さんとか小保方さんといった人たちが話題になりました。彼らは登場した時はまさにヒーロー、ヒロインとしてもてはやされたけど、今や悪者扱いされています。このように大衆って無責任にコロコロ変化出来ちゃうのですよね。メディアなどから発進された情報次第で右へ左へと急展開させられているのかもしれません。そういう事に気をつけて、と言いたいのです」

 そういえばちょっと前まで大ブームだった韓流ドラマの勢いに乗って、大にぎわいだった町では、今やヘイトスピーチなるものが横行してるとか。たった数年で世の中をごろっと変えているのは、私たちフツーの人たちなのかも。そしてそれを操作している誰かがいるとしたら・・・? やはり立ち止まって考えてみた方が良さそうです。

「人って、物語を求める『物語欲』というのがあるそうですよ。そうして美しい物語が突然醜い物語に変わると、人は大いに喜ぶらしいです。大衆が喜びそうなそんな物語に飛びつかせといて、裏ではもっと大きな事が着々と進んでいたりするかもしれません。ですからメディアや権力者が発する物語に踊らされるなよ、ということ、ちょっと考えていただくきっかけになったら、すごく嬉しいと思います」

 自分の目で見、頭で考えること、必要な時代なのかも。

 

 

毎回あらたな表現者とコラボすることで、

新境地を開拓する演劇ユニット

 

 この舞台を主催しているテトラクロマットは、演出の福島さんと脚本家の坂口理子さん、俳優の源さんと、+ゲストによって、新しい舞台の表現を模索しながら、今までにない新感覚の演劇を目指すユニットだということ。

 テトラクロマットという言葉自体が、三色型色覚より100倍繊細な色を感じる四色型色覚のことをいうのだそうです。その名の通り、毎回プラス1することでいろいろな表現者とのコラボレーションを行い、新しい試みを続けています。

「今回は、無外流という居合道とコラボレーションするということで、稽古に入る前の半年間、居合の勉強をしたのですが、ものすごくいろんなことを考えさせられましたね。福島さんがこの芝居にはぜひ居合の持つ静かな緊張感を出したいと考えていたので、それなら必要だろうと思って通い始めた訳ですが、役作り以上に、自分自身と向き合うことになり、これまで考えた事が無かった哲学的な事をいろいろ考えました。

  居合って、殺陣の剣術と違って対人しないのです。まるで誰かと向かい合って対戦しているかのように型を演じる。そのため結局誰と向き 合っているかと言えば、自分自身になる。自分と同じ背丈と感覚、考えを持つ相手を想定している自分がいるわけです。そうして『ここだ』という瞬間に刀を抜き、相手が倒れたと確信した時に刀をしまう。この二つのタイミングがものすごく難しいし、すごく勉強になりました」と語るのは、テトラクロマットの一員で俳優の源さん。テレビ「魔弾戦記リュウケンドー」不動銃四郎役でデビューした彼は、つかこうへい劇団の第八期生でした。長身で凛々しい顔立ちの彼は,鍛えられた肉体でテレビ番組「スポーツマンNo1決定戦」に出場したり、『魔弾戦記・・』で共演した山口翔悟さんと「ソ・ノ・ラ・マ」を結成して、舞台やイ ベントを開催したり、モデルとして雑誌、広告、ショーにも出演したりと、多彩な活動をしています。

「若い頃は、仕事を終えるとクラブで夜通し騒いだりしてました」と笑う源さん。

「居合道と出会った事で、役者としてもものすごく刺激を受けたし、演劇に対する思いも深まったと思います。もちろん今回の舞台にも、その影響をしっかり反映させたいと思いますね」

 

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