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 空手の有段者。出版社に勤めながら真樹道場に通い、故・真樹日佐夫先生の愛弟子として知られた飯塚さんが、独立して会社を立ち上げたのは、2011年5月のこと。そして自ら主宰する劇団「Nooooon!!」の旗揚げ公演を行ったのが、翌年5月でした。その時と同じ脚本家・演出家、同じ劇場での第二回公演<今宵、4杯のカクテルを〜「Bar Four Seasons」へようこそ〜>の本番を控え、稽古に集中する飯塚さんを訪ね、お話を伺いました。

「それにね、私の師匠だった真樹日佐夫先生がよく言っていたのですが、『格闘技のプロは、なぜか演技もうまい』のです。実際、勝負を決めるだけでなく、型の美しさや身のこなしを大切にする空手の世界で活躍している方が、何かの折りに映画などに出演するのを見ていて、驚くほど勘がよく、演技の世界になじんでいる姿をたくさん見てきましたから。道場にはその集中力や勘を養うために、通っていらっしゃる芸能界の方々も多いのです。そういう姿を長年見て来たので、私もプロデューサーとしてやっていけるのではないかと思ったのです」

 

 こうして2012年5月に<劇団Nooooon!!>の立ち上げ公演「THE LIGHT STAFF」を開催。大好評を博したのでした。

春の芝居<デジタルラブ>の稽古風景。カフェの常連客とマスターの軽妙な掛け合いが笑いを誘う。

日本舞踊の発表会の時の飯塚さん。高校時代まではほっそりした美少女だったというから驚きだ。今の飯塚さんからは想像出来ない艶姿?である。が、いったいどちらが飯塚さん本人なのかわからない。

 さて、ここは劇団「Nooooon!!」の第二回公演を控えた稽古場。出演者たちの面々が真剣に、楽しげに稽古に臨んでいます。

 聞けば、どの方も舞台や映像での経験を積み、実力を培って来た俳優さんばかりだということ。確かに舞台設定など何もない場所でも、彼らが芝居を始めると、背景の様子まで見えてくるような気がします。

 「ビバルディの四季の春・夏・秋・冬にちなんだオムニバスを作りたい」と考えて来た脚本家の坂口理子さんの描き出した世界を、経験ゆたかな俳優と演出家が力を合わせて再現しようとしているのですから、当然と言えば当然の事かもしれません。

 「私の書いた台詞が、俳優を通して息を吹き込まれるのを見るのは、最高にしびれる瞬間なのです。一度経験するとやめられない世界だと思いますね。私は役者さんが台詞の語尾や順番を多少変えても、それでより命が吹き込まれるなら、まったく気にならないの。むしろ『ああ、そういう風に表現するんだ』と感動する事も多いですね」と坂口さん。

 一井さんは、坂口さんの脚本の意図や真意を忠実に表現するため、俳優さんの台詞の表現について、的確に指示を出します。その的確さにも驚きますが、それ以上に指示された俳優さん達が即座に指示通りの表情や言い方に変えられるということに、プロフェッショナルのすごさを感じます。

 あらためて「演劇」とは総合芸術なのだという事実に気づかされたのでした。
「今回の公演では、いわばプロが集まって、一つの世界を表現している事を、皆さんに味わっていただけると思っています。その世界が谷中の小さな劇場に凝縮されて表現されるのですから、ある意味かなり贅沢なことだと思うのです。脚本家も演出家も、俳優陣も、誰一人小さな劇場の小さな舞台だからと手を抜いたりしないどころか、むしろ真剣そのもので関わってくれている・・・。プロデューサー冥利に尽きると思いますね」と飯塚さんは満足げな表情で語ります。

「今は演劇に夢中です。数年前なら格闘技と見たいドラマ番組が重なったら、間違いなく格闘技を選んでいたけれど、今はドラマを選びます。だからといって、空手の世界から離れている訳ではないのですよ。以前、空手の型と音楽を組み合わせたものをイベントで披露したら、それがことのほか好評だったので、演劇や舞踊の要素と空手を組み合わせた面白い自己表現が経験出来るワークショップを開いてみたいなあと考えています」

この人の行く道 vol.3

出版社を退社。俳優達を育てながら、マネージング。

公演やイベントを企画・開催する会社ライスマウンドを立ち上げた

飯塚 則子さん

「私、こう見えて若い頃は日舞を習っていて、発表会ではずいぶん活躍したんですよ。それに、通った学校は美術系だったし。芸術的な表現活動には、もともと興味があったのです。ただ、ご縁があったからこそ、劇団を立ち上げるということになったのは事実ですけど。話すと長くなりますが、出版社に勤めていた頃、芸能界とのお付き合いもあり、とある芸能プロダクションの方が演劇のワークショップを開催していたのです。そこで演技の指導に当たっていたのが、学生時代からの友人である一井久司さんでした。

坂口理子さん。脚本家。NHKドラマコンクールで受賞した事から一井さんとの仕事が始まった。現在は多くの依頼を受ける売れっ子作家。2014年12月11日〜14日まで、東京芸術劇場シアターウエストでのテトラクロマット第2回公演「花の下にて」も控えている。

一井久司さん。NHKディレクター・プロデューサーとして、大河ドラマ「武蔵」や朝の連続ドラマ「すずらん」を手がけた。脚本家の坂口さんとの仕事は、この公演で五回目になる。

現在はNHK出版勤務

出演者全員の集合写真。手前左から諸原佑香さん、岡田真美さん、橘未佐子さん、長坂しほりさん。奥左から柴木丈瑠さん、梅田喬さん、天晴一之丞さん、岸博之さん、内倉憲二さん。

所属事務所はそれぞれ異なれど、和気あいあいのムードで同じ芝居を作り上げている。

「今はまだ、記者として雑誌や新聞に寄稿したり、その他のお仕事を受ける事で何とかこの活動を維持している状態ですが、ひとつずつ成功させて、惜しみない 協力をしてくれたみなさんに喜んでもらえるようになりたいと思っています。そう、とりあえずは今回のこのお芝居が再演されるようになったらすごく嬉しいで すね」
 そう言って豪快な笑顔を見せる飯塚さん。この笑顔がある限り
、これからも多くの人たちから支えられて大きな夢を果たして行くに違いない!と感じました。
 

冬の芝居<春雪>の一場面の稽古風景。稽古場ではみんな真剣そのものだが、かといってシリアスではない、和やかなムードが漂う。

春の芝居<デジタル ラブ>の稽古風景。喫茶店のマスターと常連客の軽妙なやり取りが笑いを誘う。

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「たまたま私が独立した頃、その芸能プロダクションの方が都合で転職されることになり、一井さんの推薦もあって、そのワークショップを引き継ぐ事になったのです」

 演劇ワークショップを開催するうちに、「やっぱり本番に向けてという目標があった方がやりがいがあるのでは?」と考え、劇団立ち上げにいたったとのこと。

NHKで演出家として大河ドラマや連ドラなど、数々のドラマを手がけて来た長年の友人、一井さんや、今では芝居やドラマの脚本家として各方面からひっぱりだこの脚本家・坂口理子さんの惜しみない協力を得て、このたび第二回公演を開催する事になったということ。

「ノリコとはお互い学生だった頃からの飲み仲間なんだけど、卒業後に彼女は出版へ、僕はNHKに入社してからも、仕事の話をよくしていたのです。だから彼女なら大丈夫と思って演劇ワークショップの後継を任せられたし、僕が信頼を寄せる脚本家である坂口さんを紹介する事もできたのです」と付け加えるのは演出家の一井さん。

 飯塚さんが、あらたに踏み出した演劇プロデューサーとしての仕事は、過去の編集者としての経験や空手家としての経験、そしてそこから生まれた人間関係の集大成と言えるものかもしれません。

「ノリコは、2012年に 続いて昨年2013年に第2回公演を、と考えていたんですよ。それを実現しようとした矢先に、僕が病気で倒れてしまった。だから僕としてもこの公演は復帰 の証。長いつきあいだから、というだけではなく、お互いの人間関係をつなぎあっているうちに、不思議なご縁が生まれて、ここまで来ているのです。僕たちがこれまでのドラマ作りで学んだ事を、次世代に少しでもつなげられたらと思います」

という一井さん。

 

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